レイコーン
ドクの食事前のお祈りが終わり、
マールはドクに勧められるまま最初にパンを千切り小さなカケラをほおばった。
 
広間の大きな窓は普通の人の3倍はある大きさで
太陽の光をイヤと言うほど浴びている。
マールは誰とも目をあわすこともなく部屋中を眺め、
黙々と口を動かしていた。
 

 

「あの」

 
 
しばらくして、マールはおもむろに、溜め込んできた疑問をドクに投げかけた。


「あの…」


ドクは、不思議そうな顔をして
ひげをいじりながらマールの目を見て言う。


「もう、帰りたくなったのかの?」
 
 
「あ、いえ、」


少し残念そうな、ドクの様子を前にマールの視線は上がらない。
 
 
「…父さんに、お父さんに何も言わずに出て来たから後で怒られるなって思って。」
 
 
その様子はひどくおびえていて、目が泳いでいる。

「お父さん怖いのかい?」

ニコスが聞いてきた。

「うん。ルールや規則を守らないとすごく怒るんだ。『~しなさい、言うことが聞けないのか』ってね」
 

ドクは、にっこり笑うとマールの不安を取り除く会話を始めた。
 

「大丈夫じゃよ。π通りの扉を見たかの?」
 



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