レイコーン
歌が聞こえる。
やさしい歌。言葉のない歌。
音の強弱だけで語られる歌。
父親が不器用にも
子どもを抱く女を守るようなそんな力強さに
深い深いおもりの残るそんな歌だ。
マールの目に演奏者が映る。
「…ニコス?」
そこには楽器がない。
ただ、黙々と剣をふるう彼の友人がそこにいる。
ニコスがいた場所から奥にある
一本だけ生えた枯れかけの木に目が止まった。
その細い木とその隣には
石でできた小さな塚があって
砂が詰まり黄色くなっている。
「妻ミケルへ。ク・・・ガ?」
誰が彫ったものかまでは砂に隠れていてよく読めない。
その下の方には音符のようなものが描かれていた。
「ニコス!」
「あ、マール。」
マールに気がついたのか、ニコスは手を止めマールに語りかける。
「ねぇ?ここで、音楽を奏でてる人いなかった?」
すると、ニコスはにんまりと笑って答えた。
「ここには、俺一人だよ。」
「ふ~ん?練習?」
「あぁ。」
手のひらの汗をふき取るとニコスはマールに聞いてきた。
「ありがと。それよりもどうだった?王様何言ってた?」