月に願いを
清鷹が出陣すると聞いて以来、結姫は毎晩月を見上げては祈らずにいられなかった。

『どうか清鷹を無事に帰してください』

結姫にとって清鷹が武勲を立て出世するよりも、ただ無事で傍にいてくれる事が願いだった。

いつものように廊下で空を見上げていると衣擦れの音が聞こえた。

志乃かと目をやるとそこには清鷹がいる。

「清鷹…?こんな夜更けにどうした?」

静かに問う結姫には清鷹の言葉が予想出来た。

「明日、出陣する」

ああ……やはり……。

「そうか…」

「最後に結姫に会いたくなってな」

結姫は無言で微笑んだ……つもりが零れたのは笑みではなく涙だった。

「結姫?」

「最後などと言わずに…必ず生きて戻ってきて…」

清鷹は堪らず結姫を抱き寄せた。

「清鷹?」

「ずっと…結姫を愛しいと想っていた…。臣下にあるまじき事だな…」

結姫は自嘲気味に呟く清鷹の背を小さな手でギュッと掴み腕の中でかぶりを振った。

「清鷹しかいらぬ…。ずっと清鷹だけを想っていた。だから…必ず戻って…」

「結姫の元に戻る…必ず…!」

薄い月明かりが抱き合う二人を照らしていた。
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