月に願いを
「えっ?」

初めて感情のこもった声を上げた。

「そなたの輿入れ先は羽鳥の新しい城主の若殿です」

奥方はゆっくり噛んで含めるように結姫に告げた。

「羽鳥の…?」

清鷹を討ったかもしれない羽鳥の?!

「嫌です!」

痩せた体に怒りが満ちて膝の上で強く握った拳が白くなる。

「嫌などという我が儘が通るとお思いか!」

いつも柔和な奥方がこれほどの強い口調で結姫に迫るのは初めての事で思わず結姫は体を震わせた。

「母上…」

「そのように強く言わなくても…。結や。戦に勝ったとはいえ東雲、双葉、羽鳥の三国を治めるには私一人では難しい。そこで双葉、羽鳥を私の信頼している者に任せる事にした。結にはこの東雲と羽鳥の仲立ちを頼みたいのだ」

優しく説く君主に結姫は俯いた。


清鷹がいない今、私は何のために生きるのだろう…。

清鷹の後を追う事も、髪を下ろし仏に仕える事も出来ず、ただ死んでるように生きるならここまで育ててくれた父と母の役に立つために生きるのが私の役目なのかもしれない…。

結姫は両手をついて両親に頭を下げた。
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