月に願いを

・暗雲

戦が近いと聞かされても結姫の生活がガラリと変わった訳でもなかった。

ただ、登城した際には必ず結姫の顔を見に来てくれていた清鷹が全く来なくなった事を除いては。

清鷹が来れないぐらい仕事に忙殺されているという事は、いよいよ戦となるのかと結姫の心中は穏やかではなかった。

近頃では城内まで何かと戦の噂で騒ついているようで、やはり戦が近いと思わざるを得ない。







「結姫様。本日は清鷹様がこちらにお見えになるそうです」

清鷹との外出より三月以上経っていた。

思いがけない清鷹の来訪の意だったが結姫は素直に喜べなかった。

忙しくなるので会えないと言った清鷹がこのように城内が騒ついている時にわざわざ結姫の元に来るなどいい話のはずがない。

「清鷹、参りました」

結姫の不安をよそに清鷹の挨拶が聞こえてきた。

「……入れ」

三月ぶりに見た清鷹は幾分痩せたように見えた。

「清鷹…。元気だったか」

「はい。結姫様におかれましてもお元気そうで何よりでございます」
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