天国の丘
右側に漆喰いの壁の冷たさを感じ、左側に魅力的な女の子の体温を僅かに感じ始めた時、僕の目の前にマーサが立った。
「ハーイ、ボウヤ、来てくれたんだね」
と、ウインクをしながらチリ・ビーンズを置いた。
「ボウヤ、いいところへ来たよ。後10分もすればアンタが今まで聴いた事もないような最高のブルースが聴けるよ」
昨日の朝見た時の眠た気な、そして、化粧の落ちた顔ではない。
生き生きとした魅惑的なマーサに、こうして親しく声を掛けられて、ちょっとばかりいい気分になった。
それでも、ボウヤと言われた事に少々不満を感じ、それを伝えると、
「それは悪かったね。でも、アタシから見たら、アンタはやっぱりボウヤだもの」
と言って、ちっとも済まなさそうな感じでもなく、
「僕には沢田浩一という名前があるのに」
と言っても、
「コーイチねえ、コーちゃんとでも呼んで欲しいのかい?
ハハハ、やっぱりボウヤの方がしっくりくる」
なんて笑い飛ばされる始末。
もうどうでもいいやと、僕自身諦めた。
結局、マーサは僕の事をこの先もずっとボウヤと呼ぶ事になる。
マーサが再び調理場に行くと、隣の美女が話し掛けて来た。