天国の丘
二月に入って、東京には珍しく二十センチ以上の大雪が降った。
突然、死んだ母の弟である道夫叔父が、逢いたいと言って来た。
新宿の京王プラザで待ってるからと一方的に電話を切られた。
逢いたいのなら、人を呼び付けず自分から来れば良いのにと思いながらも、この叔父には頭が上がらないから、結局、大雪で普段の倍も時間を掛けて走る中央線に乗って新宿に向かった。
駅を出ると、歩道の至る所に雪が積み上げられていたが、都心の外れである福生の雪と比べて、新宿の雪は灰色で汚らしかった。
京王プラザに向かう道すがら、僕は本格的なホームレスを初めて見た。
ビルの壁にピッタリとくっつくようにして横たわっていたそのホームレスを目にした時、すぐにそれが人間だとは気付かなかった。
黒い塊がピクリともせず、まるで打ち捨てられたゴミの山みたいだった。
その横を通り掛かった時、僅かに顔が見えた。
瞼が閉じられている。
死んでいるように眠っている。
いや、もしかしたら本当に死んでいたのかも知れない。
物言わぬただの物体と化したそのホームレスを見て、僕は少しばかり恐怖感を憶え、と同時にT・Jの姿を思い浮かべていた。