天国の丘
高校に入って間もなく、父が自動車事故で亡くなり、母はその悲しみを忘れようとするかのように、一日も休まず寝る間も惜しまず働いた。
「これからの社会は大学に入らないとやってけないよ」
と言うのが口癖で、事ある毎にその言葉を聞かされた。
僕自身、勉強そのものは嫌いじゃなかったから、英文科でも受けて、将来は英語で身を立てようかなんて漠然と考えていた。
大学受験を間近に控えた高三の十二月。
母が大量の血を吐いて倒れた。
胃癌だった。
自覚症状は、多分ずっと前からあった筈なのに、普段から病院嫌いだったので手遅れになる迄放って置いたから、呆気無い程に死はやって来た。
ショックで僕は一週間ばかり、眠る事も、食事をする事も出来なかった。
お陰で、正月は母が息を引き取った病院で過ごす羽目になってしまった。