天国の丘
「お前、本当は英語を勉強して、それを活かせる仕事に就きたかったんだろ?
今からその夢に向かったってちっとも遅くないんだぞ。一年間予備校に行って、それから大学出たって、卒業する頃はまだ二十七か八だ。
金の事を心配してるんなら、前から言ってるように、母さんが残してくれた金で充分足りる。
気を遣って俺を頼らないのか、それとも何か気に入らない事があってなのかは知らないが、とにかく俺にはお前をきちんと見届ける責任と義務がある。
お前をこのままドロップアウトさせたまま、道端で果ててしまうような人生を歩ませる訳には行かないんだ」
叔父の最後の言葉が重くのしかかって来た。
不意に、来る時に見たホームレスの姿と、うらぶれたT・Jの姿が目に浮かんだ。
「たった一人の肉親である姉さんが、浩一を頼むと言って息を引き取ったんだ。どんな思いでお前の母さんが……」
顔を会わした時は、決まって最後にこう言い、辺りをはばからず号泣する叔父だ。
晩婚で、奥さんも高齢なものだから、子供が出来ず、叔父は僕に養子になれとまで言って来る。
心根の優しさは、本当に嬉しいし、充分に伝わっては来るのだが、何故かいつも思いとは裏腹に、つれない態度を取ってしまう。
「判った。少し考えさせて。本当にやりたい事を探してみるから」
ホームレスやT・Jの事を考えたせいなのか、この日はいつもと違う答え方をし、叔父と別れた。