天国の丘
一人一人と乾杯しながら互いに自己紹介をして行った。
リサやリュウヤさんがT・Jの名前を知ってるのは、二人がミュージシャンだから当然としても、星野さんやユウスケさん、それにナナちゃんまでが彼の名を聞いて、
「神野タカシって、まさかあの神野タカシ?」
と口にしたのには、さすがに驚いた。
父がファンで実家には、彼のレコードが今でも大事に取ってあるという。
「僕が聴いて来た中では、No.1の日本人ジャズプレーヤーだったよ」
星野さんが僕にそう言うと、それが聞こえたのか、リュウヤさんも、
「ピアノもサックスも、そして歌わせても最高だった。ナベサダやヒノ以上に本場でも通用するプレーヤーだった……」
と言った。
「そうだ……神野タカシは、だった、という過去形の人間になっちまったのさ……。
今は飲んだくれの名無しだよ」
T・Jは自分の事をそう云いながらも、その口調は何故か少しも暗さを感じさせず、寧ろさらりとした南国の空気みたいな明るさを漂わせていた。
けれど、それがかえって皆を落ち込ませた。