天国の丘

 思っていた以上に広く、テーブル席が十席程あり、カウンターは磨き上げられた一枚物のマホガニィのようだ。

 大きなピアノがあり、奥が一段高くなっていて、中央にドラムがセットされ、ステージになっている。

 壁に何枚かのポスターが貼られ、なにより眼を引くのはステージの左右に一個ずつある大きなスピーカーだ。

 バックバーには数え切れない程のレコードが納められてあり、その横には見た事の無い銘柄の酒瓶が並んでいた。

 マーサが自分の煙草に火を点けた。

 カウンターに置かれたマッチで、この店の名が

『サッド・マン・スリー』

 と判った。

 僕は思い直したように、入口で出会った男の事を知りたくて、マーサにいろいろと話し掛けるのだが、彼女は片頬に笑みを浮かべるだけで、ずっと無言だった。



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