天国の丘

 その時はそれが彼女の僕に対する気持ちの表れだと思っていた。

 僕の想いを受け入れてくれたんだと思ったわけだけど、後になってよくよく考えてみればこっちが望んでたような形で彼女が受け入れてくれてたとしたら、あの時あの唇は頬ではなく僕の唇に触れてくれてたのではないだろうか。

 あれはきっと愛だとか、恋とかいうものではなく、彼女なりの僕に対する優しさだったんだと、暫くしてから判ったような気になっていた。

 とにかく、レナがアメリカへ旅立つ迄まだ何ヶ月もある。

 一緒に居る時間を僕なりに大切にしなければと考えた。

 それには、T・Jの事を彼女の望む形で実現させて上げる為に、出来る限り力になりたいと思った。

 ライヴそのものの企画は、リュウヤさんが細かい部分迄練り上げてくれた。

 リュウヤさんの計画は、『サッド・マン・スリー』の三人を揃えて復活ライヴをするというものだった。

 T・J以外のメンバーの消息をいろんなツテを使って調べてるらしい。

 さすがプロデューサーとしても名のある人だから、チケットやポスターの手配といった事迄に手抜かりが無かった。

 ライヴをする会場だが、僕らは何の疑問も持たずマーサの店を当てにしていた。

 それだけじゃなく、T・Jとの直接の連絡もマーサを当てにしていた。

 だから、プランが出来上がり、その事を伝えた時には、まさか彼女が難色を示すなんて思ってもいなかった。




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