天国の丘
「T・Jの件がどうしたって?」
「昨日、マーサにT・Jのライヴの件を話したんだけど、いい返事を貰えなかったんだ。
マーサは、一時の思い入れだけでT・Jを引っ張り出そうとしないでくれってそう言うんだよ」
「そうか……まあ、場所は何処でも構いやしないけど、出来ればマーサの店が一番良いに越した事はないんだがな。
なんて言ったって三人の名前を付けた店だし、マーサがそこに居るという事が意味ある事なんだ。
恐らく、マーサはT・Jの居場所を知ってる筈だと思う。それが力を貸して貰えないとなると、この話しは難しくなってくるな……。
コーイチの運の良さを期待して、又々偶然バッタリというのを待つしか能が無いのかな……」
「レナちゃんは何て言ってるの?」
「僕には何も。ただ、まさかマーサから断られるなんて思ってもいなかったから、すごいがっかりしてたみたいで……」
「俺の方もがっかりするような話しがあるんだ」
「えっ?」
「他の二人なんだけど、共演は無理なんだ」
「断られたんですか?」
「断られるも何も、江木サトルと新堂エイジの二人は天国の住人になっちまってるのさ。さすがの俺様も、あの世に行ってまで出演交渉は出来ねえからな」
「『サッド・マン・スリー』はT・J一人だけになっちゃってたのね」
部屋の中の空気が、それまでとはうって変わって、重苦しいものになっていった。