天国の丘

「二人共、人知れずって感じでさ、この話しも本人達の家族に聞いてやっと判ったんだ。
音楽関係者で彼等の消息を知っていた奴なんて、結局一人も居なかったよ」

 リュウヤさんの言い方は、何だか自分をも皮肉っているような感じに聞こえた。

 その事を僕は、何となく感覚で理解した。

「マーサとT・Jって、どういう関係だったんだろう……」

 リサの言葉を聞いて、同じ事をレナと話した夜を思い出していた。

「T・Jにもう一度音楽をやって欲しいって、マーサも考えてくれてると思ってたんだけどな……」

「一時の思い入れか……。
 マーサにそう言われちまうと、そうなのかもなって気がして来たよ」

「リュウヤさんからそんな言葉を聞くなんて思ってもいなかったよ。普段はおちゃらけて、へらへらしてても、いざという時は真剣に物事を考えてくれる人だと思ってたのに」

「俺って、所詮そんな人間なのさ。人生ノリだけで生きて来たから」

「ビール、ご馳走様でした」

 そう言って、僕は不快感を露わにして立ち上がった。

 部屋を出る時に、リサが駆け寄って来た。

「気を悪くしないでね。あの人は、ああいう物の言い方しか出来ない人だから」

「判ってます」

 とは言ったものの、僕の態度がその言葉とは裏腹なものである事を、多分リサも気付いたと思う。

 結局、昨日からのモヤモヤした気持ちは、リュウヤさんを訪ねても晴れはせず、却って重くどんよりしてしまった。

 そういった事もあって、僕達のT・J復活ライヴの計画はしばし頓挫した。




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