天国の丘
このアパートに於ける僕にとっての一番の親友は、一階の雑貨屋で飼われているゴールデンレトリバーのマックスだ。
飼い主である雑貨屋のオーナーよりも、僕に懐いてる位で、僕の自転車の音を聞きつけると、その大きな体を弾ませながら飛んで来る。
ハフハフ言いながら僕に撫でられるのを待ち、尾を振り続ける。
金色に輝く長い毛足は、手にすると心地良い程に柔かい。
ここの住人は他にも居る。
屋上に建て増しされたバラックのような小屋に、二十代半ばから後半にかけての男女が移り住んで来たのは、つい最近の事だ。
引越しの挨拶に来た時、夜勤で留守にしていたものだから、いつの間に、階上に新しい住人が越して来たのか全然気付かないでいた。
マーサの店からほろ酔い加減で帰って来た僕は、マックスの熱烈歓迎をいつも以上に機嫌良く受け入れ、自分の部屋へ戻った。
倒れ込むようにベットに横たわり、瞳を閉じると、つい何時間か前の出来事が再び甦って来た。
(彼は何者なんだろう……そして、マーサとの関係は?)
そんな事を考えているうちにうとうとし始めた。