天国の丘

 彼らは天国に行ってしまった。

 最後の一人も行ってしまった。

 いつ迄も昔の想い出で笑ってられるような女を演じれる程、私は強くないんだ。

 浩一、いろいろありがとう。

 少ないけど、次の職探し迄の間は、食いつなげられるだけの金は入れて置いたよ。

 店の後始末は、全部あのビルのオーナーに頼んであるから心配しないでおくれ。

 店にあるレコードで気に入ったのがあれば好きなだけ持って行きな。

 彼女との時間を大切にして、アメリカに行ってしまう前に、沢山想い出を作るんだよ。

 生まれて初めて書いた手紙が、こんなに長くなってしまった。

 これは、きっと一生分の手紙の長さかもね。

 いつ迄も元気で…… 政子』


 手紙の中で、初めてマーサは僕の事を名前で呼んでくれた。

 僕の涙がぽとりと便箋の上に落ち、文字を滲ませていた。

 その少し右上に、僕のとは別に、涙が滲んで乾いた跡が点々と、三つばかりあった。




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