天国の丘
第六章【そして……】

 二十代の頃、あれ程もどかしい位にゆっくりとしか前に進まなかった時間が、三十代を境に足を早め、まるでビデオの早送りみたいに先へ先へと進んで来た。

 そのせいなのか、ここ二十年ばかりの間の想い出は、二十代の頃のそれに比べ、色合いが薄く感じられる。

 若い頃の想い出は、出て来る登場人物の髪の毛一本一本の色までが鮮明に色付いている。

 僕の

『サッド・マン・スリー』

 での想い出は正しくそれだった。

 あの日の手紙が本当に一生分だったようで、マーサからはその後、葉書一枚として来なかった。

 レコード店に入ると、川嶋レナという名を探すのだが、そういう名がクレジットされたレコードは今も見つからない。

 彼女の消息は二通目のエアメールで消えた。

 リサとリュウヤさんとは、今でも東京に行った時には会ったりする。

 二人共まだまだバリバリのミュージシャンだ。

 リサは三人のお母さんとなりすっかり逞しくなった。

 毎年クリスマスが近付くと、必ずT・Jのレコードを棚から引っ張り出す。

 今、僕が住んでる所は、福生なんかより遥かに北の方で、それこそ十二月ともなれば辺り一面銀世界になる。

 今年のクリスマスは何時もと違うクリスマスを迎えられる。





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