天国の丘
その時、天井のシェードランプが揺れだし、部屋全体がミシミシと音を立て始めた。
埃が落ちて来て、思わず僕は身を起こした。
屋上の部屋は物置なんかだと思っていたから、まさか新しい住人が引越して来たなんて全然思いも寄らなかった。だから、この時は近所の悪ガキ共がこっそり忍び込んで悪さでもしているのだろうと思い、一言怒鳴って追い出そうと部屋を出た。
屋上に出、バラックの扉の前に立つと、中から女の声が聞こえて来た。
話し声とは違う。
明らかにその声はアレをしてる時の声だ。
僕は、悪ガキ達がいたいけな少女を連れ込んで、いけない事をしていると思った。
「オイッ!何してんだ、開けろ!開けるんだ!」
鍵の掛かった扉をドンドン叩と、中から罵るような言葉と舌打ちが聞こえて来た。
鍵が外され扉が開くと、現れたのはチョコレート色の肌をした美しい女性だった。
薄っすらと汗ばんだ胸元が、眩しい位に輝き、悩まし気な曲線をより際立たせていた。
キャミソールを押し上げている頂きがつんと上を向き、下着を付けていない事を判らせる。
「何か御用?」
一瞬、黒人かと思ったが、彼女の言葉は紛れもなく綺麗な日本語だった。
「あのぉ、ここは空き家のはずで、確か倉庫になっていたと思うですが……」
「私達、先週越して来たのよ。ところで、貴方は?」
「あっ、ごめんなさい。僕はこの下の住人で沢田といいます。
すいません、引っ越されて来ていたなんて全然気付かなくて、本当にごめんなさい」
思い切り慌てた僕は、しどろもどろになって、ただひたすら頭を下げ続けた。
奥から男が現れた。
「リサ、新聞屋か?」
男の眼差しは、僕の体を上から下まで舐め回し、そして射すくめた。
「おい、アンチャン、新聞なら間に合ってるよ。とっとと失せな」
音を立てて閉められた扉の前で、僕は情け無い気持ちで立っていた。