桃色の空
「いいけど…」
私の言葉を聞き、桜井君はベンチに腰をおろした。
私も、戸惑いながら隣に座る。
嬉しそうにお弁当の包みを開け始める桜井君。
「じゃーん」
そう言って桜井君が包みから出したのは、五目おにぎり。
なにか意味でもあるのだろうか。
私が眉間にしわを寄せると、桜井君が言った。

「これ、朝、コンビニで買ったんだけど、まだ温かいんだ。
 すごくない?」

私は、呆気にとられた。
……小学生じゃあるまいし。
この人、相当、おかしい。

ウケ狙いなのか天然なのか……
この人の言動からすると、天然の可能性が高い。

「す、すごいね。お昼まで持つなんて」
とりあえずそう答えて、私は、朝コンビニで買ったあんぱんの袋を開けた。
ペリッと音がして、袋が破れる。
あんこの甘い香りがこぼれてくる。
私は、お気に入りのパンにかぶりつこうとした。


「こしあんと粒あん、どっちが好き?」

……わあ!?

いきなりの質問に、パンを手から落としそうになる。
桜井君が素早く、パンを受け止めてくれる。

「ごめん、どうしても聞きたくて……。
 びっくりさせっちゃったね、ごめん」
そう言って謝る桜井君。
どうしても聞きたかったって……あんこの二択のことが?

「ぷっ、変なの」
笑いがこみ上げてくる。
本当に変。馬鹿を通り越してる。
「あはははは……」
私を不思議そうに見る、桜井君。
でも、すぐに桜井君も、つられて笑いだした。


そんなおかしな私たちを見ていたのは、満開の桜だけ。
そう、あのときの私たちは、桜の木にとって、
変な二人組のお客さんだった。
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