ぼくは、ぼく。
撃たれたように振り向いた。
「……タカハシ…」
「何やってんの? 待ち合わせ?」
後藤に声をかけた青年は、
不機嫌そうな薄い唇の端を少しだけ上げて、
低いトーンで言った。

「そうだ、高橋! 大学の…、
 学部違うし部活もゼミも違うが、
 知ってる高橋!!」
「なんだよ、それ。
 彼女待ってんの?」

鼻で笑いつつも、嫌味が無いのが
つくづく得でウラヤマシイ。

「…たぶん。そうみたいだけど…
 ああ、そうだ!!
 お前こそ、なんで居るんだよ!!
 そうだよ!
 確か…幼馴染の彼女、いただろ??」
「なんか、女同士で今日は集まるって」
「えぇえ!? まっさか!
 今日、クリスマス・イブじゃん」
「……」
高橋は、肩を竦めてみせた。

「…じゃ、オレ帰るから」
「うわああああああああ!!
 タンマ!タンマ!!」
後藤は男友達のコートのキャップを掴んだ。
「なんだよ!!」
後ろに急に引かれて首が痛かったらしい。
高橋は怒鳴った。

「…あのさ、ちょっと自分が
 わかんないんだけど」
「はぁ!?」

「ちょちょちょ! ちょっと聞いて。
 突然、自分がわかんなくなることって、
 ない!?」
「…精神医学の話?」
「ん、そこらへんはわかんね。
 なんでもいいんだけどさ。

 今さ、自分がここにいて、
 なんとなく、明らかに、僕は後藤成実で。
 誰かと待ち合わせしてた、っぽいんだけど。

 …自信がないっていうか、
 確信が感じられないんだよ。

 そういうの、何か知らない?」
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