ぼくは、ぼく。
高橋と呼ばれた青年は、背筋を正し、
改めて目前の人物を見た。
後藤は、このキツい視線を知っている、
と、思った。

【知っている】…?????

「…なんだか知らないが、
 お前はお前だろう。
 変なこと言うなよ」

後藤は安堵した気がした。

「…だよなあ。
 …変だよな、そういうの…

 そうだよ… 何も疑問はない……

 …………………………
 …………………………」

「ニャァ~アァァ~」

薄く雪の積もったアスファルトの上を、
猫が歩いていた。
猫は、後藤の足元を歩いていた。

「うわっ、なんだこいつ。
 寒いのに…」
後藤は素早く猫を抱き上げた。

肉球に、みぞれと泥が付いている。
猫の体温と重みがコートを通じても伝わる。
正直に、毛皮と猫は温かくて、
薄く幻のような虚構が急激に色あせて行く。

(?!…突然現れた!?)

後藤成実は【気がついた】。
景色が遠ざかる。
街のざわめきがくぐもる。

「…お前、誰だ…?」

猫を抱いたまま、
後藤は友人の姿をした存在に問いかけた。

「そういうお前こそ、誰だ?」

「【俺】は、『俺』だ!
 『僕』じゃない!!
 …俺は自分を俺と呼ぶ。

 待ち合わせするような相手はいない。
 居たらいいと思うだけで。

 それに」

後藤は、猫を抱き上げた時に落とした、
プレゼントの包みを拾い上げた。

「これは、俺が貰ったんだ。
 『美代子』という高校生から。

 彼女は俺たちの大学に見学に来てた。
 それで持病で具合を悪くして…
 …それで俺たちは知り合った。

 …そうだ。だから、お前が、
 いや、アイツが。
 ここに居るはずはないんだ。

 お前は誰だ!?」

「ナァァアァァーーーー」

猫が笑った。
後藤はワッと叫んで猫を放り出した。
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