TO-KO
「…どうしたんですか?ふてくされてますけど」
秘書、ステルラは窓際で頬杖をしながら外を見ているアルフレッドに声を掛ける。実は何十分も前から分かっていたが、自分の仕事が片付かないため放置していたのだ。これは付き人として長年付き合ってきた経験からだ。
「…トーコに今夜の夜会を、断られた」
ぽつりとアルフレッドは小さい声で言った。
相当ショックのようだ。
「トーコさんに?…それは、当たり前でしょう。彼女の方が立場をわきまえてますね」
「………」
(無視か)
ステルラは、少しカチンときたが上手く感情を抑え込む。そして、それに呼応させるように黒縁の眼鏡を掛け直す。
これも長年彼と過ごしてきた経験から得た技だ。
「よく理解なさっていないようですから言いますけど、夜会のパートナーに使用人を連れて行く馬鹿はいませんよ?それでふてくされるのはトーコさんに失礼です」
「…わかっている」
ステルラが少し、諭すように言うとアルフレッドは外の景色を見たままで反応を示した。
本当にわかっているのやら。
ステルラは肩をすくめ、ため息を小さく吐いた。
顔は随分と大人びた気はするが、心はまだまだ子供のようだ。
と、自分が彼の親目線になっていることに気付き、苦笑する。
「さぁ、事務処理をさっさと終えて此処をでましょうよ」
「…ああ」
「ああって、アルフレッド様の判子がないとどんなに私が貴方の代わりに頑張っても意味がないのですよ?」
そう、今は午後から夜会へ赴かなくては行けないため、今日中に終わらせなくてはならない細かい作業をこの午前中にやっている最中なのだ。しかし、アルフレッドはただ、景色を眺めているだけ。
(駄目だ―――)
ステルラは思った。
彼はどこか深い思想の海に沈んでしまったようだ。
そうなると、彼が自分から其処から出て来ない限り、外から揺さぶっても、往復ビンタをしても戻ってこないのだ。
「はぁ…、後で戻ってきてからぶん殴ろう」
ステルラは密かにそう誓った。