TO-KO
「それよりトーコ。お前ちゃんと飯食ってるのか?腕なんか棒みてえじゃねえか」
「私はベジタリアンですので、つく脂肪がないんじゃないでしょうか」
「たくっ……、肉食えよ、肉。スタミナつかないぜ……?」
「前にも言いましたが、嫌いなものは嫌いなんですから、仕方ないでしょう?それとも、ラーグが私の好き嫌いを克服出来るように、手を尽くして下さるのですか?」
瞳子は、嫌みっぽくラーグに挑戦してみる。実は、瞳子がこの屋敷の中で呼び捨てで呼んでいるのはラーグだけだったりする。気さくなラーグは、少し他者と距離を置いていた瞳子を、すぐに手懐けた。
同じ、屋敷の中での使用人としての親近感もある。
「お前さんが望むなら、な。だが、あんたの事だからこれっぽっちも克服しようだなんて思ってねーんだろ?」
「当たり前です。よくお分かりで」
やはりラーグは、人をよく見ている。
そもそも、瞳子が前にいた世界では肉はあまり食べる習慣がない。食べるのは祭事の時のみ。いわゆる、精進料理のような食事が食卓を彩るのだ。
だから、ほとんど此処で食べたのか初めてといっていい。
それが瞳子の口には合わなかったのだ。
「そいや最近、シオンを見ないな。飯は元々、あんまり食べてくれねぇから俺の仕事としては対して変化はないけどな」
ラーグは、ゆっくりと机を挟んだ瞳子の正面の簡易椅子に腰をかけた。
「ああ、シオンさんですか?今、コンサートツアーで、各地を飛び回っているんですよ。売れっ子ピアニストですから」
「へぇぇぇ…。てかあいつ、よく耐えられるよなぁ…、あの熱狂的なファンに。ニコニコ、丁寧に握手なんかよくやってるよ、本当に」
「まぁ、シオンさんは本当に真面目な方ですからね。私も、感心します」