TO-KO
「ラーグは良い父親になれそうですね」
「今日はどうした?褒め殺しか?」
「素直な感想を言っただけですって」
「―――俺は一生、此処でコックをやってられたらそれでいいんだ」
他には何も望んでないと、呟いた。ラーグは、どこか悲しそうだった。
だか、聞けない、と思った。踏み込んで良い境界線の向こう側の話だと直感した。
流れ者のあたしが、聞いて良い話ではない。
「さて、十分休憩をさせて頂きましたので、仕事に戻ります。もし、今日の仕事が全部終わらなかったら、責任―――取って下さいますよね?」
「体で―――、か?」
ラーグの瞳の奥が妖しく蠢く。
その目はまるで、餌を求める獣そのもの。
それを確認した瞳子は、
「……勿論、体で。―――――まぁ、全部の廊下を埃一つなく、ピカピカに拭いて下されば許しましょうか」
では、といつの間にかドアの前にいた瞳子は、颯爽と出て行った。
肩透かしをくらったラーグは、まだ、湯気の立つ目の前の紅茶を見つめ、
「――――たっく…、とんだメイドだぜ…」
と頭を悔しそうにかきむしり、頭を垂れた。