TO-KO
「して、瞳子。あちらの世界で異世界を渡る術はある?」
「ない、と思うけれど。あたしは、そんなの聞いたことないわ」
瞳子は少し思案して、慎重に答えた。
「じゃあ、この世界でいう魔術のようなものは?」
「……呪術というのはあるわ。でもそれは、そんな万能ではないはず」
「そう―――」
そのまま、クロノアは顔を俯かせた。今度は彼が思案しているようだった。
その隙に彼の部屋を観察してみる。この部屋はほぼ、本棚で占められている。背表紙は最近覚え始めた此方の言語で書いてあり、流石にまだ読めない。ただ、なんとなくそのフォントから堅そうな本達であることには間違いないだろう。じっくりと、辺りを見回していると、クロノアが急に顔を上げた。
「―――今ね、この世界の北部で混乱が起きてるんだ」
「混乱?」
「この世界では見たことのない服装の男、数人が、街を襲ってるんだって。襲われた街はほぼ全滅で、けっこう深刻。――此処から出たことがない瞳子には情報はいかないとは思うけど」
「そんなことが……」
クロノアの表情からして、本当に深刻なようだ。
瞳子はこの世界に来てから月日は経ったが、この世界の、ましてはこの屋敷があるこの国の地理を全く知らない。
「――実はね、この世界だけじゃないんだ。あちこちの世界でその現象と似たようなことが起きてるらしい」
「だから…世界を渡る術がないか聞いたのね…。でも、何故あたしに?」