TO-KO
しばらくそうしていただろうか。
「―――泣いてるの?」
急に聞こえた声に驚き、瞳子は思わず涙を引っ込めてしまった。
―――もう夜は遅い。クロノアに呼ばれたのが既に夜であったのだから。
誰だろうと瞳子は、声が聞こえた左上を見上げた。
「え……、ベルフェゴールさん?―――何故…此処に…?」
自身の左側に、ベルフェゴールがゆらりと立っていた。廊下のオレンジ色の灯りにほんのり照らされた白髪が幻想的だ。でも、瞳は氷のように冷たい。瞳子は、彼が少し苦手だった。
それに、彼は住み込みではないのでこんな時間に居るはずはないのだが………
「この先の書庫に用がありまして。―――それにしてもトーコこそ、何故こんな所で泣いて……ああ、そうか…」
ベルフェゴールは辺りを見回したら、理由が分かったようだった。アルフレッドの自室のドアを見つめ、ぽつりと言った。
「―――哀れだ、アルフレッド様は」
「……哀れ?」
いきなり何を言い始めたのだろうか。瞳子は、首を傾げた。
「彼は求められると断れない。自分を必要としてくれていると思い込んでしまうから。でもかといって、大切なものを作る事はできない。喪うのが怖いから。求めることが出来なかった彼は、求められることに弱い」
さらに続けた。
「―――だから、一晩限りの関係を繰り返す。そんなことをしていても虚しさが募るだけなのに。――止められない」
まるで、麻薬ようだとベルフェゴールは言う。更に理解も出来ないいやしたくもないと。
瞳子は泣き疲れていたので起き上がる気力がなかった。
だから、今ベルフェゴールがどんな顔をして、こんな事を言っているのかわからなかった。