TO-KO
瞳子は目をこれでもかと見開いた。
けして、その酷い惨状に目を奪われた訳ではない。その男たちの姿格好に見覚えがあったのだ。

この洋風のシュテルンという世界には不釣り合いな忍者のような和服。
確かに見覚えがあった。

「何故っ…!!」

何故、この世界に彼らがいるのか。ここは《神楽かぐら》ではない。
瞳子の頭には先日ステルラが言っていたことが思い出されていた。
本当に、呪術を誰かが使い追いかけてきたというのか。信じたくなどなかったのに。

そうならば、『瞳子』を消しに来たのだろうか。
あの場面を刻んでしまったこの『瞳子』を消しに――

「トーコ!!前から逃げるぞ!!!」

瞳子はアルフレッドの鬼気迫った声に我を取り戻した。アルフレッドから差し出された手に反射的に自身の手を重ねる。

温かい手が、瞳子の胸を締め付けた。

マチルダもちゃんと付いてきている。
瞳子たちは、前にある非常口に差し掛かった。しかし瞳子はそこでピタリと立ち止まった。アルフレッドは自然と後ろに引っ張られる。

「トーコ?」


アルフレッドが不思議そうに声をかける。
うつむいている彼女の顔はアルフレッドからは見えない。


瞳子は苦悩していた。


―あたしは自分が生まれ育った世界から逃げ出した。
今度もまた逃げるというのか、こんな自身を受け入れてくれた世界から。
そして、またあたしだけ―。

瞳子は、唇を噛み締めた。
後ろでは、相も変わらず悲鳴と呻き声が混ざり合っているのが、聞こえてくる。

瞳子はすぅと深呼吸をして、顔を上げた。
そして、真っ直ぐにアルフレッドを見つめ、告げた。

「――先に、先に逃げてくださいませんか、アルフレッド様」

「な、何を言っている、トーコ!?」

アルフレッドは、目を見開く。そして、瞳子の肩を思わず掴んだ。

「危険だ!早く出なければ!」

「――私は大丈夫です。彼らの目的は私ですから―」

「!?それは、どういうことだ…?」


アルフレッドの困惑した顔を見つめながら、瞳子は不思議とアルフレッドに対しては頭が冷静であることに気がついた。本当は、自分でもこの状況についていけていないはずなのに。

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