TO-KO
傷付いて欲しくない。この人だけは。あたしを受け入れてくれたこの人だけは。
そうすんなりと感じることができることに瞳子は微笑んだ。
「大丈夫です、本当に。必ず、帰りますから。―――マチルダさん」
瞳子の後ろでだまって成り行きを見守っていたマチルダは、ひとつため息を吐き瞳子の横をすり抜ける。
そして、アルフレッドの腕を掴んだ。
「アルフ、行くよ。トーコちゃんが大丈夫って言ってるなら大丈夫でしょ」
「マチルダ!待て、マチルダ!離せ!」
「ほら、早く!巻き込まれるのはごめんなんだからっ!」
「ぬわあっ!?」
掴んだアルフレッドの腕をそのまま引っ張り方向転換させ、回れ右をしマチルダはその背中を思い切り蹴り飛ばした。アルフレッドは、非常口の先へと消える。
マチルダは、そのまま非常口へ向かった。
「…トーコちゃん。これは貸しだからね。あとで覚えといてよね」
そう言うとマチルダも出ていった。
「ありがとうございました、マチルダさん」
マチルダの物分かりの良さに賭けた瞳子は、安堵の笑みを溢す。マチルダにならアルフレッドを託すことができる。
もう心に懸かるものはなくなった。
瞳子は、再び目を瞑り、深呼吸をした。そして、目を開け、後ろに振り向いた。橙の瞳が煌めく。
ザジュッと肉を切り裂く音が会場に響いている。
音が響く度に聞こえる絶叫は、まさに命が一つずつ消えていく合図であった。
壁に床に客席に赤い鮮血が降りかかる。
しっかりとこの目で見なければ、と瞳子は背けそうになるのを堪える。膝に力を入れていないと倒れそうだ。しかし、逃げることは許されない。
何故彼らがここで凶行を行っているのかを見極めねばならないからだ。
明らかにこれは瞳子自身に関わっている事なのだから。
そんな瞳子の目に、その中でただ何もせず腕組みをしている男がいるのが見えた。明らかに他の男達と纏う空気が違う。瞳子は警戒の眼差しを送る。
すると、男もこちらの視線に気付いたのか、自然と目が合う。
男はただ、妖しげにそして嬉しそうに口角を上げた。瞳子から目を反らさずに。
「っ、……奏っ………!」
やはり彼がいた。
その男は、瞳子の主、神偉の従者である奏だった。
濃灰色の髪に、アイスブルーの瞳。
瞳子のかつていた世界では、ありふれた色の、髪と瞳子が彼の名を力無く言ったのを聞き取り、奏はゆっくりと近づいてきた。
そうすんなりと感じることができることに瞳子は微笑んだ。
「大丈夫です、本当に。必ず、帰りますから。―――マチルダさん」
瞳子の後ろでだまって成り行きを見守っていたマチルダは、ひとつため息を吐き瞳子の横をすり抜ける。
そして、アルフレッドの腕を掴んだ。
「アルフ、行くよ。トーコちゃんが大丈夫って言ってるなら大丈夫でしょ」
「マチルダ!待て、マチルダ!離せ!」
「ほら、早く!巻き込まれるのはごめんなんだからっ!」
「ぬわあっ!?」
掴んだアルフレッドの腕をそのまま引っ張り方向転換させ、回れ右をしマチルダはその背中を思い切り蹴り飛ばした。アルフレッドは、非常口の先へと消える。
マチルダは、そのまま非常口へ向かった。
「…トーコちゃん。これは貸しだからね。あとで覚えといてよね」
そう言うとマチルダも出ていった。
「ありがとうございました、マチルダさん」
マチルダの物分かりの良さに賭けた瞳子は、安堵の笑みを溢す。マチルダにならアルフレッドを託すことができる。
もう心に懸かるものはなくなった。
瞳子は、再び目を瞑り、深呼吸をした。そして、目を開け、後ろに振り向いた。橙の瞳が煌めく。
ザジュッと肉を切り裂く音が会場に響いている。
音が響く度に聞こえる絶叫は、まさに命が一つずつ消えていく合図であった。
壁に床に客席に赤い鮮血が降りかかる。
しっかりとこの目で見なければ、と瞳子は背けそうになるのを堪える。膝に力を入れていないと倒れそうだ。しかし、逃げることは許されない。
何故彼らがここで凶行を行っているのかを見極めねばならないからだ。
明らかにこれは瞳子自身に関わっている事なのだから。
そんな瞳子の目に、その中でただ何もせず腕組みをしている男がいるのが見えた。明らかに他の男達と纏う空気が違う。瞳子は警戒の眼差しを送る。
すると、男もこちらの視線に気付いたのか、自然と目が合う。
男はただ、妖しげにそして嬉しそうに口角を上げた。瞳子から目を反らさずに。
「っ、……奏っ………!」
やはり彼がいた。
その男は、瞳子の主、神偉の従者である奏だった。
濃灰色の髪に、アイスブルーの瞳。
瞳子のかつていた世界では、ありふれた色の、髪と瞳子が彼の名を力無く言ったのを聞き取り、奏はゆっくりと近づいてきた。