大切なもの

あたしは、施設に来たことはもう、物心がついていたから、先生のことを
お母さんと呼べなかった。

あたしは、先生のことが大嫌いだった。

ホントのお母さんじゃないのに。なんで母親ぶるの。…と。

あたしがお母さんのことが恋しくて泣いている時で、先生は抱きしめてくれた。

そしてあたしは言ってしまった。最低なことを。

「お母さんぶんないで」

そしたら先生に、

「あたしはあなたの義理の母親よ。義理ってわかんないかもしれないけどね。愛音ちゃんは、本当は優しい子なんだよ?それを自分で気づいてないだけ。愛音ちゃんは可愛いし、すっごく優しい心を持っている。それに素直。素直だから、先生にお母さんぶんないでなんて言えるんだよ。ありがとね本当のことをいってくれて。自分の気持ちを言うってゆうのは、とってもすごいことなんだよ。」

“ありがとう”

初めていわれた言葉だった。

あたしはなぜかわからないけどそこで先生の胸の中で大泣きした。


それから、あたしは変わった。すっごく甘える子になっていた。先生にすっごいすっごい甘えて。かなりの迷惑をかけたと思う。

施設の人たちに嫉妬したこともあった。みんな先生のことが大好きで。あたしは人一倍大好きで。

先生がとられそうで。いなくなっちゃいそうで。お母さんみたいに。いなくなっちゃいそうで。怖かった。そして、つらかった。

だから、先生と約束した。

“アタシの目の前からいなくならないでね”

そしたら先生は絶対この約束だけは守らないとね。といってくれた。
嬉しかった。

でも。先生はこの冬。天国にいってしまった。死んでしまった。
交通事故だった。即死。


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