短編小説集
変な拘りであることは百も承知
でもやめられない
そんな私に呆れたように、彼は溜め息を一つ
「勿体ないからって俺を呼ぶくらいなら、自分で食えよ」
「いらないんだもん」
「じゃあ注文すんな」
「それは無理。何も注文せずに居座れるほど神経図太くないの」
「じゃあ飲めるもん頼めよ。ココアとか好きだろ」
「カフェでココアなんて邪道だよ」
「もうお前本当に面倒くさい」
このやり取りを何度繰り返しただろう
私はフラッとカフェに入ってはコーヒーとサンドイッチを注文し、それがテーブルに運ばれてきてから彼を呼び出す
この行動を際限なく繰り返している
彼は毎回文句をいいながらも、それでも私が呼べば来てくれる
だからきっと私は、また同じことをするんだろう
「こんな回りくどいことしなくてもさ」
すっかり冷めたコーヒーを胃に流し込んでから、彼は私をまっすぐ見つめる
私は何となく、俯いて視線をそらす
「会いたいって言えば、すぐ会いに来てやるって言ってんだろ」
これも、何度も言われた言葉
彼はとっくに気づいてる
私が彼を呼ぶために、彼に会うためにこの行動を繰り返していることに
それはそうだ
コーヒーとサンドイッチの組み合わせは、彼の大好物なのだから
.