短編小説集


変な拘りであることは百も承知


でもやめられない


そんな私に呆れたように、彼は溜め息を一つ


「勿体ないからって俺を呼ぶくらいなら、自分で食えよ」

「いらないんだもん」

「じゃあ注文すんな」

「それは無理。何も注文せずに居座れるほど神経図太くないの」

「じゃあ飲めるもん頼めよ。ココアとか好きだろ」

「カフェでココアなんて邪道だよ」

「もうお前本当に面倒くさい」


このやり取りを何度繰り返しただろう


私はフラッとカフェに入ってはコーヒーとサンドイッチを注文し、それがテーブルに運ばれてきてから彼を呼び出す


この行動を際限なく繰り返している


彼は毎回文句をいいながらも、それでも私が呼べば来てくれる


だからきっと私は、また同じことをするんだろう


「こんな回りくどいことしなくてもさ」


すっかり冷めたコーヒーを胃に流し込んでから、彼は私をまっすぐ見つめる


私は何となく、俯いて視線をそらす


「会いたいって言えば、すぐ会いに来てやるって言ってんだろ」


これも、何度も言われた言葉


彼はとっくに気づいてる


私が彼を呼ぶために、彼に会うためにこの行動を繰り返していることに


それはそうだ


コーヒーとサンドイッチの組み合わせは、彼の大好物なのだから


.
< 14 / 20 >

この作品をシェア

pagetop