ナマイキオトコの手懐け法
放課後、他校の彼氏との待ち合わせ場所に急いで向かう美奈子を見送り、私も荷物をして教室を出た。
階段を降り、いつも通り昇降口に向かって歩いていく。
どうしても沈む心を抑えきれず、ため息をついたときだった。
「矢野!」
自分の名を呼ぶ声に、はっと振り返る。
「…中本先輩…と…理沙さん…」
にこにこと笑いながら、二人が近づいてくる。
「優菜ちゃん、お久しぶりだね。元気してた?」
理沙さんの笑顔を見ると、ほっこりした気持ちになって、私も自然と笑うことができた。
「はい!理沙さんも元気そうでよかったです。中本先輩も」
ドキドキする想いを押し堪えて、先輩の目をちゃんと見て笑いかける。
「おう、俺も理沙も元気だよ」
理沙さんとよく似た笑い方。
そう思うのは、私だけ…?
「今日は美奈子ちゃんはいないの?」
「あ、はい。えと…先に帰っちゃいました」
二人の前で『彼氏』という単語を発するのは気が引けた。
中本先輩が「お前も彼氏つくれよー」なんて言ってきたら、なんと言えばいいかわからないし、私の気持ちを知っている理沙さんも困ってしまうだろうから。
「美奈子って誰だ?」
「もう、この前自己紹介してくれたでしょ。優菜ちゃんの仲良しのお友達!」
「…俺、その時いたか?」
「いたよ!」
そんなやりとりをする二人を見ていると、また表情が曇ってくる。
慌てて口を開いた。
「あの、私用事あるので、帰りますねー」
「あ、ごめんね、引き留めちゃって…」
咄嗟に吐いた嘘で理沙さんに謝らせてしまったことに胸が痛む。
「いえ、久しぶりにお話できて嬉しかったです!それじゃ」
「気を付けてねー」
「じゃあなー!」
二人に背を向けた瞬間、涙がじわーっと滲んで、前が見えづらくなった。
「……っ」
中本先輩が好き。
理沙さんが好き。
そんな私は、どうしたらいいんだろう。
――つらいよ…
涙を拭いながら歩いていると、目の前で誰かが立ち止まった。
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