ナマイキオトコの手懐け法
思いがけぬ障害物にびっくりして、涙がでていることも忘れ、私はその人物を見上げた。
―――うわ…
短めの黒髪がよく似合う、凛とした顔つき。
先輩以外の人を、初めてかっこいいと思った。
彼は、黙ったまま動けないでいる私を見て、眉間に皺を寄せた。
「…なに」
その、短くも破壊力を大いに持った言葉に、私は即座に現実に引き戻される。
「す、すみませんっ」
慌てて道をあけ、頭を下げると、上からさらに声が降ってきた。
「…あんたさ、中本のこと好きとかそーいうの?」
………え?
ばっと顔を上げる。
「な、なんで……」
戸惑う私の顔を、彼の人差し指が指す。
「泣いてるから」
あ……
「今この近くにいるのは、あんたと向こうに歩いていってるバカップルだけ。だったら、さっきまで話していたのはあんたらしかいないし、あんたが泣いてる理由は、あのバカップルにあるはずだろ」
たしかに…
私はすぐさま手の甲で目をこすり、改めて彼を見た。
「…だから、なに、さっきから」
「あ、いや…なんでもないです…」
なにか苛ついたような彼の口調に、思わずたじろいでしまう。
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