アイ・マイ上司とlove★battle
ふわりと漂うオリエンタルな香り、そして心をギュッと掴む落ち着いた声色。
誰かなんて分かってるけど…、昨日の今日だと気まずさが立ち込めてしまう。
でも、ここは職場だから逃げるコトなんて出来ない不自由さが悲しい・・・
「な、何でしょうか…」
ビクビクしつつ振り返ったものの、視線すら合わせられずに尋ねれば。
「…あぁ、今日中に資料室の整理をしておいて欲しい」
「か、かしこまりました…」
そんな不安は無用だと言いたげに、頭上から降って来たのは業務命令で。
恥ずかしさと残念な感情が入り混じる中を、コクンと頷いて返答した私。
「それじゃあ、頼んだよ」
すると肩にポンと触れてから笑った課長を見上げれば、そのまま視線が合致して。
射ぬくような眼差しを逸らせずにいると、胸がギューッと苦しくなっていく。
いま言わなきゃダメだ…、“昨日はゴメンなさい”って伝えなきゃ――
「あの、ね…」
「ん?」
「稲葉くーん」
「ああ時間か…、斉藤さんあとでも…」
「い、いえ、気にしないで下さい」
意を決して謝罪だけでもしようとすれば、彼から後回しにされて余計傷ついただけだ。
大好きな彼が向かって行く笹原さんが、そんな私を見て嘲笑っていたとも知らずに…。