素敵な片思い
「もう、えーで。頭上げて」


「小玉さん…あのっ、車…進んでません?」


「おー。動いとるな」


当たり前のように言われてしまう。


あのー…。


見れば、私がいつも乗る駅の入口を、通り過ぎる所だった。


「あっ!私、ココで降ります」


慌ててドアを開けようとするも、鍵がかかっていた。


「アホ~、危ないやん。降りるんなら、停めたるって」


小玉さんは、私をチラッと見て…頭を軽くはたいた。


小玉さんのシャツの袖が、微かに私の顔をかすめる。


痛い…。でも、痛くない。


フワッと、いい香りがする。


今日は…お酒の匂いじゃないんですね、小玉さん。


思わず笑ってしまうと、小玉さんは正面を向いたまま、笑っていた。


「あんな~。相原さんちの近くまで行くけど、乗ってくか?」


車は結局停まらず、動いている。



< 207 / 484 >

この作品をシェア

pagetop