キミの心の声を聞かせて
この日の夜。
11時を過ぎても、父は帰って来なかった。
「お父さん、帰ってこないね」
リビングで少し腫れが収まった頬を鏡で見ている母に言うと
「そのうち、帰ってくるよ」と鏡越しに言った。
その声は、酔いが冷めたからなのか、それとも母なりに落ち着きを取り戻したのか
いつもの穏やかで、時に冗談っぼい事を言ったりする母の声だった。
よかった。いつもの母に戻っている。
安心あたしは、母から少し離れた隣に座った。
「ごめんね、心配かけて」
母が、すまなそうな表情で言った。
「いいよ。お母さんの気持ちも分かるからさ」