浮気女の嫁入り大作戦

 奈緒は一瞬、頭が真っ白になった。

「なにそれ。インドって……なにそれ」

 力の抜けた笑顔が痛々しい。

「ごめん。本当は少し前にわかってたんだけど……言い出せなくて」

「こんな時期に転勤なんて、時期外れよ」

「わかってる。だけど……仕方がないんだ」

「樹じゃなきゃいけないの?」

「ああ、俺にしかできない仕事だな」

「どれくらいで日本に帰ってこれるの?」

「最低でも5年はいると思う」

 5年経てば、奈緒も三十路だ。

 しかも樹とは日本・インドの遠距離恋愛。

 奈緒の描いていた理想が見事に崩壊した。

 新たな決心をしたばかりだというのに。

 運命というのは、やはり時に残酷だ。

「あたし……どうすればいいの?」

 奈緒の目にじわりと涙が滲む。

「樹が帰ってくるまで、ずっと待ってればいいの?」

 涙はとうとう溢れてしまったが、両手に荷物を持つ奈緒はそれを拭うこともできない。


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