浮気女の嫁入り大作戦




 翌朝、月曜日。

 奈緒が出社すると、沢田は既に給湯室でタバコを吸っていた。

 沢田が早かったわけではない。

 奈緒がいつもより少し寝坊したのだ。

 原因は樹のことを考えて眠れなかったためである。

 奈緒が給湯室に入るなり、沢田が言った。

「ひでぇ顔」

 奈緒は力なく言い返す。

「でしょうね」

 ぎゃんぎゃん言い返されることを覚悟していた沢田は、その態度に違和感というよりは気持ち悪さを覚えた。

「どうしたの?」

 沢田が鎮火したのと同時に、奈緒はタバコに火をつける。

 しかし煙を吐くだけで言葉は発さなかった。

「彼氏に振られた?」

「振られてないし」

「でもこの世の終わりって顔してるよ」

「そうね。そんな気分よ」

 沢田は不思議そうに首をかしげ、部屋から出ていった。

 首元のネックレスに触れると、樹への気持ちが揺れる。

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