浮気女の嫁入り大作戦

 奈緒は立ち止まり、力が抜けたように流し台に寄りかかった。

「そうなの。思ったより、平気なのよ」

「大好きな彼氏に振られた女には見えないね。ネックレスだって、つけたままだし」

 そう。

 奈緒の首には、未だに樹からもらったダイヤのネックレスが輝いている。

 今日つけているピアスだって、時計だって、靴だって、樹からのプレゼントなのだ。

「そっか。別れたんだし、外すべきかな」

「別にいいんじゃない? 気に入ってるなら」

 ここで沢田も吸い殻の火を揉み消した。

 思えば、樹からの頂き物は家にまだまだある。

 別れたからといって捨てようなどとは思わなかった。

 それは気に入っているというのもあるし、生活に馴染んだそれらが樹からの贈り物であるという意識があまりないからだ。

 奈緒は贈り甲斐のない女なのだ。

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