浮気女の嫁入り大作戦

 そして奈緒の送別会は何とも形式的で、涙もなく、一次会であっさりと解散になった。

 奈緒は一応頂いた花束を片手に、寂しく一人で飲み直すことにした。

 フラッと電車に乗り、降り立ったのはいつも沢田と会っていた街。

 南口を出れば繁華街。

 北口を出ればホテル街だ。

 奈緒は迷うことなく南口へと歩き、何となく入社当時に沢田と行ったバーに入った。

「いらっしゃいませ」

 若いわりに渋い声を出すマスター。

 当時と変わりはない。

 奈緒はカウンターの端に席を見つけ、色の綺麗なカクテルを注文し、花束と荷物を隣の椅子に置く。

(花束なんて、ここに置いて帰ってしまおうかな)

 ぼんやり考えていると、マスターがカクテルを持ってきた。

 ライトに照らされて、細かい氷がキラキラ輝く。

「きれい……」

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