浮気女の嫁入り大作戦
濡れた髪のまま、奈緒は沢田の正面に座った。
「なんか……ごめんね」
ぽつり謝ると、沢田はそれを鼻で笑う。
「コーヒー飲んだら髪乾かしなよ」
「うん」
ほろ苦くて温かいコーヒーを飲んだら、二日酔いが少し楽になった。
先にカップを空けた彼から暗に急かされ、支度が完了したのはいつもホテルを出る時間。
ベッドはいつものように乱れているが、ゴミ箱はほとんど空である。
何もなかったことに少しの寂しさを覚えつつ、奈緒は沢田と部屋を後にした。
この日ももちろん、エレベーターでのキスはない。
奈緒はチラチラと沢田を見たが、沢田はずっと前を向いていた。
自分の失態が申し訳なくて、なんとも気まずく、上手く言葉を発せない。
(沢田くんに会うのも、これがきっと最後なのよね)
そうだ。
だから俺も、花枝に挨拶くらいしておきたい。