浮気女の嫁入り大作戦

「どうしたの、急に」

「樹だ」

「は?」

「樹の車の音がするの」

 耳を向けると、確かに車の音がする。

 すぐにエンジン音は止まり、ドアの開閉音が響いた。

「来ちゃったの? 彼氏」

「そうみたい」

 沢田の危機感作戦が効きすぎたらしい。

 奈緒はスイッチが入ったようにベッドから飛び降りる。

 そして酔いはどうしたのかというほどのスピードで、テキパキと作業を始めた。

 脱がされた服を洗濯カゴに運び、ベッドを整える。

 冷蔵庫からお茶を出してグラスに注ぎ、テーブルに置く。

 そしてグラスの前に沢田を座らせ、バッグから会社の資料を取り出してテーブルに広げた。

 ピーンポーン

「来た」

 沢田が部屋にいるという状況を説明するシナリオは完成している。

 奈緒がドアへ向かおうとすると、沢田は立ち上がり奈緒の腕を引いた。

「きゃっ!」

 気付いたときには沢田の腕の中で、いつもエレベーターでするようなキスを受けていた。

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