浮気女の嫁入り大作戦
奈緒は樹の存在を意識するあまり、ドンと沢田を突き飛ばした。
「こんな時に、何するのよ……」
「スリル、みたいな?」
「ふざけないで」
ピーンポーン
二度目の呼び鈴の後、ドアの向こうで「奈緒?」と呼び掛ける声がする。
奈緒は沢田を一睨みして、弱々しくドアを開けた。
少し開けると外からグイッと引かれ、血相を変えた樹が慌てて部屋に入り込んできた。
「奈緒……」
顔を見るなり安堵のため息を漏らす樹に、奈緒は即興で作り上げたシナリオを演じる。
「樹、こんな遅くにどうしたの? 来るなら連絡くれればよかったのに」
「したよ。でも電源が入ってないって……」
「え? うそ」
俺は気付いていた。
犯人はもちろん沢田である。
「ところで、奈緒」
「なに?」
「そちらは?」
真剣な視線は沢田に注がれた。