浮気女の嫁入り大作戦

 奈緒から緊張感が伝わってきた。

 本命の彼氏と浮気相手が対面したのだ。

 無理もない。

「あ、どうも、お邪魔してます」

 白々しく会釈をした沢田。

 この時、俺は吹き飛ばされるほどの怒りを感じた。

 樹の感情ではない。

 インド人だ。

 俺は沢田をかばうような位置にいるよう努める。

「ああ、電話の……」

「毎熊さんの同期で、沢田です」

 沢田は奈緒がテーブルに置いた資料をトントンと鳴らし、自分の鞄に詰め込んだ。

 奈緒の緊張が高まる。

「お邪魔みたいなんで、俺はここで失礼しますよ」

 奈緒の準備したグラスを空け、立ち上がる。

 そして部屋に入ってきた奈緒と樹に爽やかな顔を見せ、玄関へと向かった。

「あの、沢田くん……」

「大丈夫。原稿の訂正はちゃんと明日までにやっとくから」

「あ、うん。よろしくね」

「それじゃ、お邪魔しました」

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