浮気女の嫁入り大作戦
「怖いだろうけど、国のために戦えるなんて名誉なことじゃないか」
兵隊といえば、ヒーローだったこの時代。
強いものに憧れる日本男児としては、勇敢な戦士は何よりもカッコ良かった。
いつの時代も、苦難を乗り越えて勝利を収める姿は崇められる。
血と汗と涙は美しいのだ。
「そうね」
花枝はそう言って笑って、髪を結い直した。
「あっ」
声を上げたかと思うと、髪を結っていた紐が切れたらしい。
長い髪が風に揺れて、俺はまた花枝を美しいと思った。
思えばこれこそが、予兆だったのかもしれない。
その数日後、俺の元に召集令状が届いた。
兵力不足ゆえに学生の徴兵(学徒出陣)が行われているのは知っていた。
現に知人に一人、先に戦争に行った奴がいた。
礼状が届いた時、母が声を殺して泣いていた。
戦争へ行くのは名誉なことであり、むしろ万歳でもして喜ばなければならないというのに。