浮気女の嫁入り大作戦
かくいう俺も、手足が震えるほどの恐怖がよぎった。
そのような顔は一切見せないようにしたが、花江との未来が音をたてて崩れたような気がしたのだ。
いや、実際に崩れてしまった。
俺が召集されたのは、特攻隊だったのだから。
生きて帰ることが許されない部隊、特別攻撃隊。
略して特攻隊。
特攻(特別攻撃)とは、爆弾を搭載した軍用機や敵軍戦闘機に乗組員ごと体当たりする戦法である。
奇跡的に生還したものもいるらしいが、恐らく可能性はない。
恐れをなして逃げ帰ってきた者は、この上なく侮辱される。
精神の自由が許されないこの国で、俺はこの召集を喜ばねばならなかった。
絶望に耐え、笑顔を見せねばならなかった。
花枝との未来を、捨てなければならなかった。
空がどんなに穏やかでも、風がどんなに優しくても、俺の未来はなくなってしまったのだ。