浮気女の嫁入り大作戦
いつもの寺の境内で、召集のことを話したときの花枝の反応はこうだった。
「……そう」
軽く微笑み、空に浮かぶ雲に語りかけるように、軽く。
母のように泣き崩れることを予想していた俺は、あまりにも薄い反応に、逆に困惑してしまった。
石の階段に腰掛け沈黙している俺たちの間に、いつもより少し強い風がガザガザと割って入っているようだった。
無言のまま視線は遠い景色を見ていると、花枝が俺の手を握った。
恐ろしく冷たく感じた。
季節のせいというよりは、汗だったと思う。
「かっこよくきめてきてね」
声が震えていた。
「ああ」
「尻尾を巻いて逃げたりしたら、承知しないんだから」
「ああ」
「それから、……」
「花ちゃん」
ぱっと花枝の手が離れ、ひやりと痛みにも似た感覚が走った。