花みずき
入学式が終わって、私達はもう帰る事になった。

明日から高校生活が始まるんだ。

私は鞄の中にペンケースや、配られたプリントなどを閉まった。

そして、ふと折りたたみ傘があることに気が付いた。
私は隣にいる椿君に声をかけた。

「あ・・・あの~・・・。」


椿君は私に顔を向けた。

私は貸して貰った黒い折りたたみ傘を手渡した。

「あの・・・。貸してくれてどうもありがとう。

 凄く助かりました。本当にありがとう。」

私がそう言うと、椿君は笑って言った。

「あー平気だったのに。そんなに感謝されるほどじゃないと思うけどな。」

・・・・違うの。

傘を貸してくれた事だけじゃないの。

目立たない私に普通に声をかけてくれた事の方が、

傘を貸してくれた事より何倍も何倍も嬉しかったの。

「私は声をかけてくれた事が嬉しかったの。
 傘も、声をかけてくれた事も本当にありがとう。」

私は椿君に微笑んだ。

椿君は私の事を驚いたみたいに見ていた。

だけどすぐに目を逸らして小さい声で言った。

「立花みずき・・・だよね?」

私は覚えててくれていた事に嬉しさを感じた。

「う・・・うん。」

私はそう言って首を縦に動かした。

「一年間よろしく。」

椿君は私に笑ってそう言った。

「・・・うん。よろしくね。」

私も小さい声でそう言った。


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