詠い人
「怖いんですね」
歌が聞こえなくなり、代わりに声が聞こえた。
「楓くんは、大切な人が亡くなるのがとても怖いんですね。幼い頃のトラウマが必要以上に楓くんを苦しめていたんですね」
声はつづく。
「そして、今度は楓くんの妹の咲良ちゃんが楓くんのもとからいなくなろうとしている。また、楓くんと近しい人が亡くなろうとしていて、どうにかして、それを先延ばしにしたい、と」
その声はどこか懐かしく、冷たい。
「だけど、そんなのは意味がありません。楓くんの両親は楓くんより早く亡くなるでしょうし、咲良ちゃんも同じでしょう。楓くんの友達だって、楓くんのあとに亡くなるなんて保障はどこにもありません。慣れろ、とは言いませんがトラウマは克服すべきです」
目の前が暗い。
「けれど、あなたの傷だらけの心にトラウマの克服はつらいだけでしょう。きっと楓くんの心は壊れてしまうでしょう。それは、見過ごせません」
ぐっと背中に回された腕の力が強くなる。そこでようやく僕は誰かに抱きしめられていることに気づいた。
「詠い人として」
なぜだろう、その言葉には、他に大事な意味が込められている気がした。
「詠い人って、なに……?」
頭上でくすっと笑う声がした。
「妖精って、言ったらどうします?」
僕の背中に回されていた腕がほどけ、僕はようやく相手の姿を見ることができた。
黒い外套に身を包んだ、女の子。漆黒の髪を長く伸ばし、歳不相応な表情を見せる、成長した架南……?
歌が聞こえなくなり、代わりに声が聞こえた。
「楓くんは、大切な人が亡くなるのがとても怖いんですね。幼い頃のトラウマが必要以上に楓くんを苦しめていたんですね」
声はつづく。
「そして、今度は楓くんの妹の咲良ちゃんが楓くんのもとからいなくなろうとしている。また、楓くんと近しい人が亡くなろうとしていて、どうにかして、それを先延ばしにしたい、と」
その声はどこか懐かしく、冷たい。
「だけど、そんなのは意味がありません。楓くんの両親は楓くんより早く亡くなるでしょうし、咲良ちゃんも同じでしょう。楓くんの友達だって、楓くんのあとに亡くなるなんて保障はどこにもありません。慣れろ、とは言いませんがトラウマは克服すべきです」
目の前が暗い。
「けれど、あなたの傷だらけの心にトラウマの克服はつらいだけでしょう。きっと楓くんの心は壊れてしまうでしょう。それは、見過ごせません」
ぐっと背中に回された腕の力が強くなる。そこでようやく僕は誰かに抱きしめられていることに気づいた。
「詠い人として」
なぜだろう、その言葉には、他に大事な意味が込められている気がした。
「詠い人って、なに……?」
頭上でくすっと笑う声がした。
「妖精って、言ったらどうします?」
僕の背中に回されていた腕がほどけ、僕はようやく相手の姿を見ることができた。
黒い外套に身を包んだ、女の子。漆黒の髪を長く伸ばし、歳不相応な表情を見せる、成長した架南……?