詠い人
「私達、詠い人は、自殺するときに負の感情を持たずに死んだ存在です。ちなみに、このとき負の感情を持って自殺した人たちは死神というそんざいになるのね。把握?」

「はいはい。把握把握」

「楓くん冷たいですねー。その中でも特に、喜びの感情を持って死んだ人がカンタンテの幼生になります」

『幼生?』

僕と咲良の声が重なる。僕らは思わず顔を見合わせた。
幻歌の機嫌が悪くなる。

「フウ!続き!」

「はいはい、急かさないの、ウタちゃん。幼生というのは、カンタンテに、つまり成体ですね。それになる前の言わば能力の定まらない子供のようなものです」

「じゃあ、幻歌は今までその幼生だったんだね。でもなんで、えと、羽化、だっけ?したの?」

「名前です」

「名前?」

「楓くんが名前を与えたから、ウタちゃんは羽化し、カンタンテとなりました」

「でも、光華さんのウタっていう名前は?」

「便宜上そう呼んだだけです。幼生に名前をつけることができるのは、生前の自分と何らかの関わりを持った存在だけですから」

「ちなみに光華さんは?」

「秘密です。ややこしいから」

「……」

ややこしいから秘密なのかよ。

「つまり、説明するのが面倒なんだね……こーかちゃん」
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