LAST LOVE -最愛の人-
女の子は、優しくて、可愛くて、華奢で、守ってあげるもの。



そんなステレオタイプが自分の中にもできていたと思う。
初恋の淡い思い出は、既に良い思い出になっていた大学一年の夏。

「どうしたの?拓弥くん」


今の彼女も、正にそんな『女の子』であると思う。
小柄な彼女は拓弥を見上げるようにして首を傾げる。
その仕草があまりにも可愛くて、駆られる衝動のまま頭を撫でた。
『急にどしたの~』と呟きながら色白の頬が染まる。


(―――キス、したいな)


女の子は全てが柔らかくて、心地良かった。


その心地良さに溺れて。
体の芯に響くような感情があったことを、長い間忘れていたこととすら、忘れてしまっていた。









「今日からお世話になります。結城芽依、大学一年です。よろしくお願いします」

第一印象は、綺麗だけどキツそうな子だな、というもの。
見た目はタイプだと思った。
見た目だけは。


「――向井くん、結城さんに一通り施設を紹介してあげて」

「分かりました」


「よろしくお願いします、先輩」

「よろしく、向井です。俺も一年でタメだから『先輩』はいいよ」

「…え?そーなんだ!超落ち着いてるから先輩かと思った!」

「そう?誕生日まだだから俺18歳だよ」

「ほんとに?実は浪人とかじゃなくて?私騙されてない?」



同い年だと告げた瞬間、急にフランクになった芽依の態度に、拓弥は思わず唖然とした。
少ししてからようやく『失礼な』という感情が湧いてくる。

「はは…まぁ、よく言われる…かな。一応現役だよ」

「へぇ。なんかモテそうだけど若さが足りないよね~」


(はぁ?!)


おそらく冗談混じりであろうセリフを口にして、悪びれも無く笑う。
拓弥の引きつる頬を見てさすがにまずいと感じたのか、すかさず芽依が拓弥の前に出て両手を合わせた。

「ごめん!良い意味で『大人っぽい』って意味!気にしないで」

「いや気にするだろ」

「マジ?どうしよう!初日からマズいよね私」

悪意の無い芽依の眼に、観念したかのように拓弥は笑みを零す。



顔に似合わず口は悪いが
真っ直ぐで綺麗な瞳だ、と感じた。
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